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2009年5月23日 (土)

「遠い日の記憶」

小学校の通学路にあった古ぼけた木造の駄菓子屋
決まり事のように店番をするのは割烹着姿のおばあちゃん
そこは子どもたちの溜まり場 いつも夕刻は自転車の列
小銭で一個から買える選り取り見取りのお菓子の山
そして籤で当たる多彩なおもちゃ そこは子どもの宝の在り処
そんな夢を育む場所で 僕には忘れようにも忘れられない過去があった

あれは小6の秋 いつものように学校帰り友達と駄菓子屋で待ち合わせ
おばあちゃんは いつも子どもたちの相手で忙しそう
それでいてどこか嬉しそう そんな日常の中で僕に魔の手が忍び寄る
その日どうしてもほしいカードを見かけた でもお金が足りなかった
僕はとっさに嘘をついてしまった 「この前の買い物の時お釣りが足りなかったよ」
そう言ってまんまと100円をせしめてしまった

家に帰って親の顔を見た途端 全身を襲う罪悪感そして虚脱感
僕はおばあちゃんを裏切った あんなに優しいおばあちゃんを

あの日から僕は後ろめたさから その駄菓子屋に行かなくなった 
帰り道もわざと遠回りして 次第に友達からも離れていった
その後 そのまま小学校を卒業し その店と反対方向の中学へ入った
だけど心の奥のどこかにそのことが引っ掛かっていた いつも・・・

高校入学後は 僕の心の傷も癒えて 部活に熱中する日々を過ごした
やがて東京の大学へ進学し親元を離れての生活 そしてそのまま東京に就職した
あの日の出来事は日常の忙しさの中で すっかり遠のいていた

仕事に就いてようやく お金を稼ぐことの大変さを身を持って知った
営業の帰りに信号で止まった車の中で ふと古びた駄菓子屋を見つけた
その時 遠くセピア色に色褪せた記憶が僕の脳裏に鮮やかに甦ってきた
「あのおばあちゃんはどうしているかな そうだあの日の過ちをお詫びにいこう」

正月久しぶりに実家に帰省した 
その折 十五年ぶりに立ち寄ったあの日の場所
しかしそこに駄菓子屋はもうなかった 
建物は既に取り壊され 空き地と化していた

近所の人に聞けば 駄菓子屋のおばあちゃんは今から十年前に亡くなり
元々ご主人とは戦争で死に別れ 身寄りがなく独りでお店を切り盛りしていたため
その店はその後町に引き取られ 今から五年前に取り壊されたという
知らなかった 何も知らずにいた そんな自分がやるせない

幼い日の記憶を手繰り寄せ あの日の出来事を追憶
空き地の前で呆然と立ち尽くし 涙がとめどなく溢れた 
遠い日の過ちを心から悔いた できることなら生きてるうちに一言謝りたかった

その空き地に分け入り おばあちゃんが立っていた場所を探し当て
折れた木の枝で穴を掘り あの日の100円をそこに埋め手を合わせた

「おばあちゃんご免なさい 随分遅くなったけどあの日のお金を返すよ」
「どうか安らかにお眠りください・・・」

ようやく今 十五年の時を経て 長年の胸の痞えがとれた
帰り道 涙が止まらなかった でも人として大切な何かを取り戻した気がした 

すると僕の心の中で おばあちゃんの笑顔が浮かんでは消えた・・・

 

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