「よくぞ福島に生まれけり!」
「所変われば品変わる」という言葉がある。例えばコンビニ業界において1/3のシェアを占める最大手「セブンイレブン・ジャパン」ではあるが、なぜか青森県には「セブンイレブン」の店舗がなく、代わりに「サークルKサンクス」がコンビニ業界を牛耳っている。実は全国展開のセブンイレブンかと思えば、実は意外にも秋田県、鹿児島県、四国地方、北陸地方には未だ存在しない。また、関西と関東、それに東北地方では蕎麦つゆを始め、ラーメンスープの出汁の濃度までかなり異なっている。地域によってさまざまな特産物があって、独特な味わいが楽しめるのも、南北に長い地形を有し、寒暖の差が激しい日本ならではであろう。そこで今回は、気候風土豊かな福島県に生を受け、育った私が、地元に恩返しではないが、福島県の誇れるデータを紹介したいと思う。
まず福島県の位置だが、関東(栃木・茨城県)の北、東北地方では最南端に位置する。つい10年前までは、前知事・佐藤栄佐久氏の「森に沈む都市」というキャッチフレーズの大号令の下、福島県に「首都機能移転を」という機運が高まり、候補地に名乗りを上げた。県民一体となって招致運動を展開し、あわよくば実現の可能性が最も高かった土地だった。その誘致場所とは、須賀川と玉川村周辺の山間で、2001年の「うつくしま未来博」の開催や福島空港建設などでその布石を盤石に敷くと共に、磐越自動車道と東北縦貫自動車道とを三角形に結ぶトライアングルハイウェイ構想、はたまた企業や工場の誘致も活発化し、県民の誰もが「福島県に首都が来るかもしれない」と密かな期待を抱いたものだった。しかし、急転直下、石原現東京都知事の、絶対王政的な鶴の一声で、この計画は頓挫し、空中分解となり、すべてが儚き夢の如く幻と消え去ってしまった。
命題だった首都機能移転こそならなかったが、地元福島県は文字通り福の宝庫、宝の山である。大自然に恵まれ、海・山・湖・河川・そして都市部が横たわるというように調和と均衡がとれている。まず、面積は北海道・岩手に次いで日本第3位の広さを持つ。東西に長く、温暖で魚介類の恩恵に肖れる浜通り。新幹線が貫き、盆地が多く、商工業都市が集中する中通り。雪深いが、人情が厚く、豊かな緑と農作物がふんだんにある会津というように3つの地方でに分断されて形成している。また、人口は約210万人で、東北では宮城に次ぐ第2位。1人当たりの県民所得は266万円で、47都道府県中第25位だが、県内総生産額は全国第18位の7兆6千億円。実質経済成長率は、全国第16位の+1%で、全国平均を+0.5%上回っている。自然がもたらす恩恵を受け、農林水産業と商工業とがバランスよく波及効果を生んでいるのだ。そして土地が豊富で、首都圏に近いことから地の利を活かし、古くから大企業の工場が点在し、地元の労働者を雇用していることも経済発展や県内産業の内需拡大に大きく貢献している。とりわけ国道4号線と国道49号線が交差し、東北自動車道と磐越自動車道が交わる郡山周辺は、物流の拠点として栄えて来た。元々郡山市は、県内のほぼ中央に位置し、交通の要衝だったことから宿場町として繁栄して来た。現在もホテルや旅館の数は多い。そこに来て東北新幹線、東北本線、磐越西線、磐越東線、水郡線が発着し、東北でも仙台に次ぐNO.2の乗降客数を誇っている。
次に農作物について考えると、福島と言えば米と果物が代表格。米の作付面積(生産量)は、全国の市町村で見ると郡山市が全国第1位である。特にブランド米の「あさか舞」は、郡山市内で生産された「コシヒカリ」と「ひとめぼれ」の一等米として販売している。豊かな水と米づくりに最良の気候に恵まれた郡山産の米は、生産量、食味とも全国でもトップクラスです。郡山市は養殖の鯉の出荷量も全国第1位だ。また、福島県の中通りは、くだもの王国でも名高い。「もも」の収穫量は福島県が全国第2位、全国シェアの19%を占めている。それ以外にも「なし」や「いちご」「ぶどう」「さくらんぼ」などの果物がたわわに実る。野菜では、きゅうりの生産量が郡山市は全国第1位である。数年前まで日本一の透明度を誇った猪苗代湖の水が、安積疎水という上水道を通って郡山市に運ばれて来るため、水質は日本で指折りに入る美味しさなのだ。そんな上質な水を使って育てられたお米や野菜が不味い訳はない。私の地元・郡山市は、平成9年に中核市の指定を受け、経済県都と呼ばれるほどの商業都市であるが、製造品の出荷額、年間の商品販売額は共に東北の市町村では第2位である。更に高度情報化の進展度は全国第21位、東北北海道では第3位にランクインしている。そして郡山と言えば音楽都市である。安積黎明高校は前身の安積女子高校の時代から全日本合唱コンクールにおいて30年連続金賞受賞という快挙を成し遂げた。年齢を問わずコーラスが盛んな土地柄である。
続いて、会津地方だが、会津と言えば地酒である。福島県の6割以上の酒は、会津地方の酒蔵で醸造される。雪深い会津にあって、湧水や雪解け水の清冽さは群を抜き、透明度は高く、まことしやかで、筆舌に尽くしがたい。新酒は米どころ・会津のお米(山田錦・美山錦など)と水を使って仕込まれる。しかも「会津人は頑固だから」という会津気質を表す適語が存在するように、酒造りにも一切妥協を許さない。そうして醸し出された地酒は、全国の品評会でも高い評価を受けている。3年前は金賞獲得数と金賞獲得率で、日本の穀倉地帯と言われる新潟を凌ぎ、堂々の日本一を獲得。一昨年、昨年は全国第2位とその確かな味は全国の地酒ファンの折り紙つきである。また、会津産のコシヒカリは極めて高い評価を得て、特Aクラスである。また、会津身不知柿は皇室への献上品となるほどの上質な甘味が売り。ところで、このところの経済悪化に伴い、長く地元に貢献してくれた「富士通」が工場を閉鎖、撤退したのは誠に慙愧に堪えない。
浜通りは漁獲量で全国18位にランキングされる通り、漁業が中心だが、最近は「日産自動車」や「アルパイン」など自動車関連産業の台頭が目立つようになってきた。小名浜には鉄鋼や石油化学関連の工場が隣接し、勿来界隈には発電所やパルプ産業が操業を行っている。水揚げされる主な魚介類は、遠洋漁業によるカツオやサバ、サンマが主流で、近海ではカジキマグロやいわき名産のメヒカリ、ドンコ、養殖も盛んなヒラメなどが漁獲量としては多い。また、周辺海域でウニやアワビも収獲される。よって新鮮な獲れたての魚がその日のうちに食卓に並ぶ確率が高いのだ。そして近年は製造業にも力を注ぎ、製造品出荷額ではいわき市が堂々の東北第1位である。
ところで、ご当地福島県は、陸上王国である。特にマラソン界では注目の的である。古くは東京オリンピックで、日本陸上界で初の銅メダルをもたらした円谷幸吉選手を筆頭に、当時日本最高タイムを叩きだした富士通の藤田敦史選手、北京オリンピックで日本代表となった佐藤敦之選手、そして順天堂大時代、山上りで新記録を樹立した「元祖・山の神」、今井正人選手、そして2年連続、周囲の度肝を抜く快走で「新・山の神」に君臨した柏原竜二選手もまた福島県出身ランナーである。女子では世界選手権金メダリストの鈴木博美選手も同様である。そして大学日本一に何度も輝いている「福島大学」があり、丹野麻美選手や青木沙弥佳選手などのオリンピック選手を4名も輩出している名門があるのも強みだ。これだけ凄いと何だか涙が出そうだ。この「陸上王国」を確立させたと言っても良い大きな出来事が毎年、晩秋の福島路を駆け抜ける「ふくしま駅伝」である。全市町村のランナーが襷を繋ぎ、地元の名誉のために健脚を競いあう。この地域振興をも兼ねた市民参加のロードレースによって、走る楽しみが倍加し、多くの有能なランナーを生みだす原動力とも言える。円谷幸吉メモリアルマラソン(10月)、湯のまち飯坂・ふくしまマラソン(10月)、郡山シティマラソン(4月)、東和ロードレース(7月)、伊達ももの里マラソン(8月)、猪苗代湖を一周する磐梯高原ウルトラマラソン(7月)、相馬市松川浦大橋ふれあいマラソン(10月)いわきシーサイドマラソン(2月)など県内の自治体主催のレースは数多い。日本を背負って立つような有能な選手たちは、みんなここから巣立って行ったのだ。
芸能界でもさまざまな方が福島県にゆかりがある。まず、ウルトラマンやゴジラなどの特撮映画の分野を確立した映画監督・円谷英二、「嗚呼栄冠は君に輝く」などで有名な作曲家・古関裕而、都はるみに楽曲を提供した市川昭介、現代音楽の魁となった湯浅譲二、森進一・五木ひろしにも曲を提供した猪俣公章、名曲「高校三年生」で知られる作詞家・丘灯至夫、俳優・西田敏行(郡山市)、佐藤慶(会津若松市)、梅沢富美男(福島市)、佐藤B作(福島市)、女優・秋吉久美子(いわき市)、伊東美咲(いわき市)、相楽晴子(郡山市)、芸人・加藤茶(福島市)、三瓶(本宮町)、スポーツ選手・江川卓(いわき市)、中畑清(矢吹町)、競輪・伏見俊昭(白河市)、バイクレーサー・平忠彦(原町市)、フィギュアスケート・本田武史(郡山市)、タレント・野村沙知代(西白河郡)、宝塚・白羽ゆり(福島市)など。特に、加藤茶は福島市出身で、ザ・ドリフターズの一員としてお茶の間の人気者になった。そして、テレビ「池中玄太80キロ」や「おんな太閤記」、そして映画「釣りバカ日誌」などに主演し、個性あふれる演技派俳優として活躍した西田敏行も郡山市小原田出身である。そして県内を舞台にしたテレビには、「ひまわり」(NHK連続テレビ小説):福島市、「はね駒」(NHK連続テレビ小説):相馬市、「白虎隊」 (日本テレビ系テレビドラマ)(日本テレビ系テレビドラマ):会津若松市、「白虎隊」 (テレビ朝日系テレビドラマ)(テレビ朝日系テレビドラマ):会津若松市などがあり、またちょくちょくサスペンスドラマのロケ地として使用される。一方映画では、「フラガール」:いわき市、「釣りバカ日誌8」:いわき市、「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」:ロケ地の一つとして会津若松市、「容疑者 室井慎次」:ロケ地の一つとしていわき市、「遊びの時間は終らない」:いわき市が舞台となった。
その他の福島県関係のデータをドキュメントで紹介しよう。発電量全国第1位。出生率第3位。歳入額第14位。地方交付税額第9位。高速道路実延長距離第3位。新聞発行部数第14位。自動車登録台数第19位。勤労者の実収入額第4位。薬剤師数第19位。まだまだあるが、キリが無いのでこれくらいにしておきたい。福島県が日本全国誇れる物は多種多様にあるということだ。ひとつ残念なのは、広い県内を反映して、10年ほど前までは、福島県の市町村は90を数えた。しかしながら近年の平成の市町村合併によってその数は減り続け、現在は60になってしまった。福島テレビの「自転車でGO!」を見ていると、何か虚しさを感じてしまう。それに国宝の数がやたら少ない。私が知る限りでは、いわき市内郷にある白水阿弥陀堂だけではなかろうか。けれどもそこは御愛嬌。
若い頃、「田舎者」と馬鹿にされそうで、自分の出身県を口にするのも憚った時期もあった。しかし、親元を離れて暮らすと、つくづく親のありがたみや故郷の素晴らしさを身をもって知ることになる。やはり「故郷は遠くにありて想うもの」なのだ。だから、今は堂々と胸を張って大きな声で言える。「よくぞ福島にうまれけり!」と。骨を埋めることになるであろう福島県の今後のますますの発展を願ってやまない。
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