ドキュメンタリー「45歳の挑戦」~決断篇~
昨日(3月20日)の14時、私にとって生涯忘れない運命の時刻を迎えることになった。それは、予ねてから願書を提出していた某大学から合格通知書が書留郵便で到着したのだった。45歳の私にとって、大学生をやり直そうなどと大それた発想と行動は、一瀉千里などでは到底なく、やはり苦渋の選択だったし、一世一代の決断だったと言える。今回はその模様の一部始終についてドキュメンタリータッチで語ってみたい。
実は1月より密かに準備を進めていた。願書を取り寄せる手配をしたり、母校の大学に成績証明書や卒業証明書の交付を依頼したり、家内にも内緒で水面下で動いていたのだ。不惑をとうに過ぎた私が、この歳で新たに学問の道を志そうと大それたことを考えたのは、別段今の仕事に不満がある訳でもないし、人間関係をしくじって現状からの逃避を考えた訳でもない。まして高学歴が欲しくてこんな危ない橋を渡ろうとした訳でもない。自分で言うのもおこがましいが、幼少より、勉強の出来は芳しくなかったくせに、好奇心だけは人一倍旺盛で、わからない言葉があると、すぐに広辞苑やwikipediaで調べるなど飽くなき探究心を持ち合わせた性格が災いしたようで、もしかするとただ単に血迷っただけかもしれない。大学を卒業して実に22年目にして、自分の専攻とは違う分野の学問を身につけたいという願望が芽生えたのが決断の理由のひとつだった。それは法律や条例などを始めとする法規範であった。その延長線上には、あと15年で迎える60歳の定年退職後の生活を見据えて、「行政書士」や「司法書士」などの資格を取得したいというのがあった。念のために断っておくが、決して今流行りのテレビドラマに感化された訳ではない。
ふたつ目の理由は、昨年より導入された「裁判員制度」である。その実施に踏み切った経緯やその是非も問題点は大ありだが、法律の「ほ」の字も知らない者が、ある日突然「招集令状」が届くような不意打ちに遭い、しかもまるで雲を掴むような得体の知れない法廷の場において、例えそれが悪逆無道の犯罪者であっても、人の運命をも左右しかねないような重大な判断を自分が下せるのかといった疑念が絶えず付き纏っていた。2月時点で、現行の死刑制度の存続を望む声が、85.6%と圧倒的多数を占める中で、万が一自分が殺人犯の裁判を担当したとして、法の知識も持たない一般人が、感情論やその場の状況、審理の行方次第で、「安易に死刑判決などを下して良いのか」という葛藤が起こり得るだろう。志操堅固とまで至らずとも、少なくとも法規範の意味を理解し、何時選任されるか予想だに出来ない裁判員に対して、こちらも或る程度心や知識の面で準備しておくのが礼儀だし、筋ではないかという考えに至ったのだ。その為に法律の分野に敢えて首を突っ込みたくなったのだ。
三つ目の理由は、自分の学生時代を振り返ると、おぼろげだがやりたいことがあって、その学部学科を目指したのだが、確かに北海道と東京で学生時代を過ごし、貴重な時期に様々な経験を積むことはできたと思う。ご承知の通り、大学は私大の場合、とにかく授業料等の学費が高い。25年前の当時でも、年間の学費が50万円以上かかった。しかもその半分は休みであった。大学という場は、自分で行動を起こさなければ何も始まらず、誰もお膳立てなどしてくれはしない。「楽しく充実した日々を過ごすか」または「何も残さずに遊んで時間だけ浪費して終わってしまうのか」はすべて自分次第である。私自身、自分の学生生活を振り返った時に、苦手科目の教授が休んで休講となった場合、不覚にも喜んでしまうような学生だったと記憶している。これは刹那的かつ浅はかな発想で、親が苦労して工面してくれた高い学費を単にドブに捨てているようなものだった。申し訳ないと思う。「もし今、学生に戻れたら、どれだけ時間を大切に考え、熱心に勉学に励めることか」という考えが心のどこかに燻っていたのだ。
四つ目の理由は、本音を言えば、このまま安泰で何の刺激もなく、変わり映えのしない、千篇一律でのんべんだらりとした日常と別離したかったことが挙げられる。福島県は確かに住むには自然環境が素晴らしい所だが、時々中央集権の巣窟と言うべき東京へ出向いて適度な刺激を受けないと、発想や思考が麻痺してしまうのではないかという強い不安と危機感を抱いたのである。既に人生の峠を過ぎ、残りの半生を考えた時に、「自分は何を生きた証としてその足跡をこの世に残せるのか」疑問だった。大袈裟かもしれないが、臨終の間際に未練を残したり、後悔するくらいだったら、周囲に迷惑をかけない範囲で、「体が動くうちにやりたいことはやっておこう」という結論に至ったのだ。
しかし、「言うは易し、行うは難し」である。それは自分が考えるほど簡単なものではなかった。現在の仕事に穴を空けず、どうにか「法律」を学べる手立てはないものかと思案して、あれこれネットや雑誌などを検索。そうして辿り着いたのが通信制という手段だった。私が入学を強く望んだのは、国内でも屈指の名門大学で、恐らく日本で1・2を争う最高峰の私大である。どの道法律を学ぶなら、国家公務員 I 種や司法試験の合格率が高い難関大学の方がやり甲斐があるだろうし、決心が鈍らないよう退路を断つ意味でもハイレベルの環境下に自分を追い込みたかったのだ。でも通信制とは言え、如何せん実業高校と法律とは凡そ畑違いの大学の学部しか出ていない私が、偏差値70もあるような大学の学問(自主学習やスクーリングの講義)について行けるのか不安は内心拭い去れなかったし、実際問題として、本当に合格できるのかすら疑問だった。正直、合否は微妙で五分五分だろうと考えていた。一応こう見えても、大学時代は、バイクであちこちツーリングして遊び呆けていたものの、決して授業だけは疎かにせず、真面目に出席し、レポート提出も欠かさずマメに出していた。年度末の筆記試験の前には、泣きべそを掻きながら死に物狂いで、夜を徹して学習に励んでいた。よってその甲斐あって「優」の数は30個程度あったこと、また在学中に「英語検定2級」を取得していたこと、高校時代には簿記や珠算の検定にも合格していたことなども合否の際には有利に働くかもしれないという期待感はあった。
ところが実際に願書を取り寄せてびっくりした。流石は私大の法学部では最高峰の大学だけの事はある。ただでは合格を許さない仕組みになっている。学力試験はないものの、いきなり、720字以内の志願理由書と「学びたい専攻分野に関する書籍を読み、そのあらましと自分なりの考察を加え、720字以内で論評せよ」というレポート提出が課せられていた。早めに願書を取り寄せたために出願まで一か月以上の猶予があったので、とりあえずブックオフに走り、岩波新書の本を2冊買って来て読むこととなった。その買い込んだ2冊とは「日本社会と法」、「マルチメディアと著作権」というお堅い本だった。私にとってレポート作成はお手の物だった。毎日当ブログで、原稿用紙換算で10枚以上書くことを自分のノルマとしていることも大いに役立ったし、レポートを仕上げることに関しても一抹の不安もなく、苦にもならないし、全く負担には感じなかった。そして書類一式を整えて出願したのはバレンタインデーの2月14日だった。ここまで要した費用は13,695円。もう後戻りできない状況だった。
ところで、私が希望した大学の選抜方法は、主に4年制大学を卒業した人が受験する「学士入学制度」というものだった。これは卒業まで通常4年かかるところを、既にその資格を有する人には優遇措置があって、一般教養に当たる総合科目40単位分を免除。外国語は英語を選択したが、これにも仮認定の制度があり、それを希望すればレポート提出を免除され、テキストにて自主勉強し、筆記試験だけを受験して及第点を取れば単位認定されるというシステム。英語については、学生時代に嫌というほど勉強していたので多少なりとも自信があってさほど心配はしていない。従って、大部分は法律の専門科目の履修と卒論のみでO.Kというものだった。そして、東京と横浜にあるキャンパスで、夏にスクーリングが一週間ほどあって、それに出席して15単位分の単位取得ができれば卒業要件を満たすというものだった。しかも通学課程なら年間80万円もかかる学費だが、通信制なら年間10万円程度。最短コースで行けば2年半、24万円程度で卒業まで到達できるというかなり格安な学費で済むので家計にも優しく、先立つものの心配はさほど無用。入試は学科試験はなく、書類選考のみ。更に、これには特典と呼ぶべき優遇措置が付随している。45歳と言えども身分は学生。スクーリングで東京に出向く際は、JRが学割料金の適用を受けれるし、レポート提出の際にも郵便料金が通常より割安になる。また、首尾よく卒業出来た場合、卒業証書(学位授与証)や卒業証明書は「○○大学法学部卒業」となって、通信制の文字は一切入らない。したがって大手を振ってOBを気取れる。まぁ、これはあまり意味がないことだが・・・。要はコツコツと自分のペースで地道に学習を継続できるかがカギで、私は昔から通信教育にあれこれ手は出すものの、長続きしなかった苦い経験がある。さらには今度は仕事をやりながらなので、そうすんなりはいかないだろうが、曖昧模糊ではなく、自分へ明確な目標を与えることは、生活に張りを得られることだし、自分のペースで勉学に励むことができる点では助かる。最長12年まで在籍が可能。この4月より、合計84単位(外国語8単位+専門68単位+卒論8単位)の取得を目指すことになるが、今後、恐らく孤軍奮闘、いや悪戦苦闘になるかもしれないが、熱願冷諦にならぬよう、その模様は適宜、当ブログ内において、ドキュメンタリー形式で状況報告を行いたいと思う。もし同じ経験をされた方がいれば、小生の励みになるものと考える次第なので、コメント等を頂ければ幸甚です。
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