大きな感動を残してスポーツの祭典「リオオリンピック」は幕を下ろした。17日間にも渡る熱戦の中で、毎日深夜まで応援し、昼夜逆転で時差ボケや睡眠不足に陥った日本人は数多いと思う。前回のロンドン大会を凌ぐメダル獲得の快挙に、連日絶叫していたのは私だけではないだろう。4年後の東京オリンピックに繋がる日本勢の活躍にはまこと見ごたえがあった。そんなリオ五輪を振り返り、私が個人的に感動した記憶に残ったシーンをランキング形式で取り上げたい。
1位 内村航平、大逆転の体操個人総合
完璧な演技をしてもウクライナのオレグ・ベルニャエフ選手がその上を行く安定した演技で首位に立ち、最終の1種目を残して、逆転は絶望的と思われる0.9の差の2位。世界選手権6連覇中の絶対的エースの内村は、緊迫した場面でも動じず、最後の鉄棒で完璧な演技で3つの離れ業をすべて成功。着地も「王者の着地」と実況に言わしめたように、ピタリと止め、最終演技者のベルニャエフ選手の演技を待つ。そのベリニャエフは、守りに入って業の難易度を下げ、結果着地も乱れた。14.868をマークすれば優勝だった場面で14.800と伸びず、その瞬間、奇跡の大逆転金メダルを獲得することになり、オリンピック連覇を達成した。
そして、話題となったのが、息子を溺愛する内村のお母さんの応援パフォーマンスや妻・千穂さんの美しさも際立っていた。
2位 卓球女子、苦しみながら銅メダル獲得
日本のエース石川佳純が太腿を痛め、個人でまさかの初戦敗退。準決勝のドイツ戦でリードしながらまさかの逆転負けで、キャプテンとしての重責に押しつぶされていた福原愛。敗戦後は放心状態で、大丈夫かと心配させたが、その後、「先輩たちを手ぶらで帰すわけにはいかない」とまで言い放った、大舞台にも物怖じしない15歳の伊藤美誠の活躍とエース石川の復活もあり、3位決定戦でシンガポールを倒して銅メダルを死守。2大会連続でのメダル獲得の快挙に日本中が沸いた。
それにしても、予選で戦ったポーランドにしてもドイツにしても、さらには3位決定戦で戦ったシンガポールにしても、ほとんどが中国選手が帰化しての上位進出。結局は母国ではレベルが高い激戦なので代表入り出来ず、外国に帰化して活路を見出しているだけ。また、福原愛選手は台湾選手との結婚も可能性が高いので、今後の動向が注目される。私は、今回のメダルを土産に現役引退する気がしている。
そして2020年の東京オリンピックでは、石川が27歳で伊藤が19歳。実は伊藤美誠の世代は怪物世代と呼ばれ、凄い選手が五万といて、伊藤でも団体戦メンバーに残れるかという強豪ぞろいだそうだ。これも幼い頃の愛ちゃんを見て、彼女に憧れて卓球を始めた世代だけに、彼女の存在や頑張りが卓球界に与えた影響は計り知れないのである。
3位 バドミントン女子、タカマツペアの抜群のコンビネーション
聖ウルスラ学院時代からのペア。なんと余り物同士で組ませたというから驚き。ひとつ年上で姉御肌の高橋と長いものに巻かれるタイプの松友の抜群のコンビネーションが冴え渡り、横に並ばず、くるくるめまぐるしくポジションを入れ替えてショットを繰り出す日本勢に相手ペアは翻弄された。安定した試合運びで終始リードし、あれよあれよという間に決勝進出。決勝ではデンマークのペア相手に苦戦するも、16対19の劣勢から粘りの5pt連取で大逆転V。ロンドン大会で日本人ペアが銀メダルを獲得した実績がここでも生きた。
4位 卓球男子団体、悲願のメダル獲得
波田陽区そっくりの日本のエース水谷準の大活躍で、見事銀メダルを獲得。同じく準決勝で敗れた女子団体のドイツ戦の雪辱を見事果たしてくれた。
これは男子卓球界においては、オリンピックでのメダル獲得も初の快挙で、東京オリンピックに弾みがつくものと期待される。20種類もあるという変幻自在のサーブで相手を翻弄。粘り強いラリーを制し、強豪を撃破して行った。派手なガッツポーズや大の字に倒れこんで、張本からクレームがついたが、ギリギリのところでやっている選手たちに、ケチをつけず「あっぱれ」を挙げて欲しいものだ。
5位 体操団体、復活の金メダル
こちらも前半は劣勢だった。予選で失敗やミスを連発し、4位で決勝に残ったものの、苦手のあん馬から演技スタートした日本。いきなり山室が落下し、まさかの6位スタート。しかし、失敗しない加藤やキーパーソンといわれた田中佑典が完璧な演技で巻き返し、全員のチームワークで巻き返し、最終種目の床の前にロシアに次いで2位に順位を上げ、最終種目で逆転して金メダルを獲得したのだった。アテネ以来、12年ぶりの王座奪還だった。
6位 女子レスリング、登坂、伊調、土性、終了間際に逆転金メダル
リオオリンピックも終盤に入った8月18日の早朝、日本人3人が、相次いで残り数秒のギリギリのところで逆転し、金メダルを獲得した。追い詰められた瀬戸際の局面でも決して諦めずに攻め続け、三者共に対戦相手のバックをとり、2ポイント追加で3対2、2対2と逆転した直後にタイムアップ。
伊調馨はアテネ、北京、ロンドンに続きオリンピック4連覇の大偉業なる。天国の亡き母親に捧げる涙の金メダルだった。これで柔道で3連覇した野村忠宏選手ですら獲れなかった国民栄誉賞は間違いないだろう。
そしてその歓喜の翌日、信じられない出来事が。霊長類最強とまで言われ、金メダル大本命だった吉田沙保里選手が、決勝でアメリカ選手に敗れた。誰もが目を、そして耳を疑った筈だ。しかし、過去3連覇し、今大会は日本選手団の主将を務め、過度の期待を背負わせすぎた。反対に吉田を倒したアメリカの選手のコメントが泣かせた。「彼女は私の中ではヒーローだった。彼女に憧れ、彼女と対戦するのを夢見てレスリングを続けてきた。」と述べ、感動を誘った。私たちはたとえ銀メダルでも、彼女が「すみません」と謝罪したことに、何の恥ずべきことはないと思っている。彼女が日本のレスリングを建て直し、女性でもこんなに強くなれることを身を持って証明した第一人者だからだ。感謝しても仕切れない。堂々と顔を上げ、胸を張って帰国して欲しいし、私たちは彼女の頑張りや労苦を讃えたい。そしてその敗戦の1時間後には、初出場となった川井梨紗子選手が金メダルを獲得した。東京五輪に向けて若い世代が育ったのも、吉田選手というお手本や目標があったからだ。世代交代ではなく、若手とベテランの融合で、五輪でまた金メダルを目指して頑張って欲しいと思う。
7位 男子100m×4リレー、アジア新記録で初の銀メダル
末続、高原などのスター選手に加え、朝原がアンカーを務めるなどして初めてリレーで銅メダルを獲得した北京五輪以来、8年ぶりにメダルを獲得する快挙を成し遂げた。サムライのパフォーマンスで入場した4人のアスリート(山県、飯塚、桐生、ケンブリッジ飛鳥)。大観衆、大歓声の中、プレッシャーをはねのけ、絶妙のアンダーハンドパスのバトン受け渡しの技術が生きた。準決勝の1組を1位通過した日本だったが、決勝はあのジャマイカの隣りのレーンを走り、なんとガトリンやタイソン・ゲイなどスター選手をそろえたアメリカよりも先にゴールに駆け込んだ。金メダルのパウエルやボルトを擁するジャマイカに敵わなかったが、東京五輪に弾みをつける銀メダルだった。しかもそのタイムは中国越えの37秒60。北京の銅メダルが38秒15だったことを考えれば、0秒55短縮したことになる。100m9秒台が一人もいない日本が、37秒6なのは、絶妙のバトンパス技術の成果だと思う。
8位 萩野、日本勢初の金メダル 400m個人メドレー
日本競泳陣を奮い立たせる起爆剤となった彼の力泳だった。幼少期からのライバルだった瀬戸公也も銅メダルに輝き、日の丸が日本、掲揚台に昇った。今大会はロシア勢が国家ぐるみのドーピング疑惑で出場停止を余儀なくされ、多数が不出場という状況下だったが、それでもこの快挙は凄かった。
9位 金藤、200m平泳ぎ金メダル
ロンドン五輪では代表落ちし、一時は引退を本気で考えたが、家族の支えや師事する加藤コーチの激励により、現役続行。
今大会では、競泳陣の応援団長的な存在で、指揮を鼓舞し、自身も金メダルという快挙を達成し、日本中を感動の嵐に巻き込んだ。
彼女自身はサッカーの澤穂希さんにそっくりで、その個性的な風貌とキャラクターで人気者となった。
10位 柔道男子、全階級でのメダル獲得
井上監督が「選手を信じて良かった」という発言の通り、お家芸の柔道ニッポン復活の威信をかけて、この4年間、死に物狂いで稽古に励んできたその苦労が報われた。ポイントを獲ると、逃げ回る外国勢の汚い姿勢に対し、日本は美しい一本を目指し、正々堂々と戦った。その違いがこの結果に結びついた。北京、ロンドンは女子柔道が圧倒的に強かったが、ようやく東京に繋がる結果を残してくれた。
11位 19歳の白井健三、新技を種目別で繰り出し、銅メダル
次世代エースとも内村航平の後継者とも呼ばれながら、全くプレッシャーなど微塵も感じない堂々とした演技を披露。実は練習では一度も成功したことのない自らの名前がついた大技をさらに進化させ、五輪の場で攻めの境地を貫き、本番で成功させた。ユルチェンコ3回転捻りをさらに進化させ、もう半回転。ロンダードで後ろ向きに踏み切り、3回転半ひねって、さらに回転中に着地点が見えない前向き着地という難関の業だった。演技点は最高点の6.40であえて最高の舞台の五輪でチャレンジし、成功させただけにそのインパクトは大きかった。彼も内村と同様、両親が体操一家で、幼少の頃から自宅にあった長い特製のトランポリンで業を磨いた。やはりスポーツは卓球もそうだが、幼少期からの英才教育と環境とがものを云うようだ。彼は精神的にも強く、いいキャラだ。団体の表彰式の際に、メダルホルダーを受け取り、「これ何ですか?」「歯ブラシ立て?」とチームメイトに聞くなどムードメーカーになるとともに、プレッシャーを感じず、堂々とした態度に驚かされた。東京五輪では、間違いなく、日本のエースになっていることだろう。
12位 女子柔道・田知本、姉に捧げる金メダル
オリンピック代表選考会で破れ、出場を逃した姉妹の姉に捧げる金メダルをゲット!押さえ込みで25秒経過し、勝利した直後に顔を上げた田知本選手の達成感の表情は鳥肌が立った。山口百恵さんに似ていると思ったのは私だけだろうか?表彰式後、メダルを姉に掛けてあげたシーンを感涙もの。
13位 錦織圭、日本人初のメダル獲得!
3位決定戦で圧倒的に対戦成績の悪かったナダル選手を破り、銅メダルに輝いた。
以上が、私が独断と偏見で選んだ感動名場面だ。他にも探せばいくらでもあるが、あえてこれらを選出させていただいた次第だ。
日本人選手以外で、私が思う名場面は・・・
第1位 中国人の飛び込み選手、表彰後にプロポーズ
リオ五輪で銀メダルに輝いた中国選手が、表彰式でチームメートの男子選手に プロポーズされた。女子3メートル板飛び込みに出場し、銀メダルを得た中国の何姿選手がチームメートの男性選手秦凱氏にプロポーズされたのは14日だった。そのやり方が実にドラマチックだった。秦選手は男子シンクロ3メートル板飛び込みで、前の週に銅メダルを獲得している。14日、何選手が銀メダルを首にかけた直後、そばに寄ってきたのが秦選手。ダイヤモンドの指輪が入った赤いケースを手にした秦選手は、何選手を抱きしめて耳元に向けて言葉をつぶやいた。「何かが起きるぞ!」会場の聴衆は二人から目を離せない。秦選手は何選手から体を離し、肩膝をついた状態でプロポーズの言葉を語り出す。まるで映画の一場面だ。何選手は、秦選手と向かい合って一言一言を聞きながら涙をためてゆく。秦選手が最後の言葉を言い終わって、赤いケースを高く掲げると、何選手はうなずいた。聴衆から歓声が上がる。指輪を箱から取って何選手の指にはめてあげる秦選手。歓声がさらに大きくなる。思わず胸が熱くなるような感動的な光景である。
会場内の大きな歓声に包まれる二人。「なんてロマンチック!」「おめでとう!」-この場面をテレビで見ていた多く人もそう思ったに違いない。 (Yahoo!ニュースより)
第2位 執念のヘッドスライディング金メダル
女子400メートル決勝を 行い、バハマのシャウナ・ミラーがゴール直前で豪快なヘッドスライディングを披露。 デッドヒートを演じた米国のアリソン・フェリックスとの勝負で優勝を勝ち取った。
第3位 ボルト、特例で五輪出場。でも強かった・・・100m3連覇の偉業なる
ジャマイカの国内予選を欠場し、特例措置で出場が認められたボルトは、やはり強かった。100mに続き、200m、100m×4リレーも制し、3大会連続3種目3連覇の偉業を成し遂げた。
第4位 陸上女子5000メートル予選、接触手転倒した2選手に特例措置
16日に行われたリオ五輪の陸上女子5000メートル予選で、レース中に転倒するアクシデントに襲われながらも、助け合ってゴールした2人の選手が決勝進出を認められた。同日、大会主催者が発表した。スポーツ選手らしい振る舞いで称賛を集めたのは、女子5000メートルに出場したニッキ・ハンブリン(ニュージーランド)とアビー・ダゴスティーノ(米国)の2人。ドラマが起こったのは、ゴールまで残り2000メートルほどの地点だった。
ダゴスティーノの足がハンブリンの足と接触すると、2人はもつれあうようにして転倒。メダル獲得の夢がついえたと思ったハンブリンは、がっくりとトラックに倒れ込んでいたが、その彼女に立ち上がるよう優しく声をかけ、完走を促したのがダゴスティーノだった。 ダゴスティーノは接触で足首を痛めていたが、ハンブリンはあえて彼女を待つようにして走り、励ましながら2人は完走を果たした。
当初はどちらも予選敗退に終わったかに思われた2人だが、大会主催者は後に19日の決勝進出を認める判断を下した。オリンピック精神のお手本の行為に大岡裁きとも言うべき特別措置が取られ、両者は決勝進出を果たした。
第5位 ブラジル、男子サッカーで悲願の金メダル
信じられないが、今までブラジルの男子サッカーは、オリンピックで一度も金メダルを獲得したことがなかった。ワールドカップでは最多の5度の優勝を飾っているサッカー最強国が、母国開催での至上命題を達成するために、オーバーエイジで白羽の矢を立てたのが英雄・ネイマールだった。日本時間8月21日に行われた決勝のドイツ戦では、延長戦でも決着がつかず、ついにPK戦へ。5人目でドイツのシュートをGKが止め、最終的にネイマールがゴールを決めて初の栄冠をブラジルにもたらした。スタジアムは狂喜乱舞の大騒ぎだった。
第6位 競歩で諦めない男!2回倒れても歩き続けた
男子50km 競歩で序盤、トップを“独歩”したフランスのヨハン・ディニズ選手 。スタートから2時間が過ぎて失速。その後、フラフラになりながらも、倒れても、歩き続けた。そしてゴールにたどり着いたとき、なんと順位は8位入賞!最後まで歩き続けたディニズ選手。
残念だったニュース
1 施設が未完成だったり、移動撮影用のカメラが落下し、観光客が負傷した事故
2 アメリカの競泳金メダリストが、強盗に襲われた。しかし実際には酒に酔って器物損
壊を隠蔽するための狂言だった。
3 飛び込みのプールが一夜にして緑色の藻だらけに!
そして大会をいっそう盛り上げたNHKの「オリンピックハイライト」のテーマ曲がこれ!
安室奈美恵が歌う「HERO」。荘厳な雰囲気が漂い、オリンピックの名シーンが次々浮かび上がってきそうで、全身を感動が包み込む。今夏、一番耳と記憶に残る一曲になった。
さて、毎回オリンピックの度に思うことは、スポーツは感動を与えてくれる存在だということ。日本人アスリート達の頑張りや活躍を見て、そのスポーツに関心が高まり、競技人口が増えることもあるだろうし、それを引き継ぐジュニア世代のモチベーションアップに繋がると思う。しかもメダル獲得数は前回のロンドン大会を超える41個と過去最多。これは世界第7位の好成績。ロシアが国家ぐるみのドーピング疑惑で不出場だったことを差し引いても、その活躍ぶりは顕著だった。
そして地球の裏側であっても、連日報道され、その熱戦振りが伝えられ、日本人は興奮の坩堝と化し、感激する。それはやはり、国を背負い、母国の名誉のため頑張り抜く、スポーツ特有の筋書きのない正々堂々とした戦いだからに他ならない。彼らの陰の汗と涙の努力に思いを馳せる時、涙を禁じえない。本来のスポーツの意義を実感する、それがスポーツということになる。
さて、2020年の自国開催となる東京オリンピックではどんな物語が見られるのだろうか?おそらくは体操は白井健三が中心、卓球女子は伊藤美誠と平野美宇、陸上は今回出場がならなかったサニブラウン・ハキームも出場していることだろう。そして野球とソフトボールが復活し、オールプロ+メジャーリーガーでのドリームチームが編成されるだろう。自国開催で予選免除なので、全種目出場できる。そのために国家ぐるみの強化策が敷かれ、各競技のレベルアップは間違いない。楽しみは尽きない。そして、毎回、オリンピックには意外なホープやスターが誕生する。4年後はどんな新星が登場するのだろうか?今からそれを楽しみにしつつ、今回の記事を閉じたい。
<次回の東京五輪をPRするPVも流れた閉会式の模様>
記事作成:8月17日(水)~22日(月)
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