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小説

2010年10月28日 (木)

白虎の魂 飯盛の地に果てぬ  ~峠の虚像~

およそ1年前に「会津の魂」というタイトルの記事の中で下記の時代小説を認めたたことがある。私の祖父母は生粋の会津人で、特に5年前に亡くなった祖父は、「ならぬものはならぬ」の頑固一徹の厳しい精神が骨の髄まで宿り、どこを切っても会津の血が流れるほどの根っからの会津武士道を全うした人だった。もちろん剣道六段で師範の資格も有していた。今回は二度目の掲載となるが、尊敬する祖父を偲ぶとともに、会津武士道を忘れないために敢えて二度目の掲載に踏み切った。幕末の時代背景を噛みしめながらとくとご覧あれ。

時は幕末 京の都は暗雲垂れ込める政変の世 
倒幕 維新を叫ぶ勤皇の獅子に敢然と立ち向かい
幕府最後の砦 京都守護職の命を拝した容保
尊皇攘夷が旗印 長州の策略をことごとく排除し
天下に名を轟かせた会津藩 その配下で一躍
その存在を世に知らしめた新撰組
戦の度に翻る誠の紋章はまさしく時代の象徴
されどその栄華はほんの一時に過ぎなかった

禁門の変で会津は討幕派の憎しみを一身に背負い
その後 龍馬の仲立ちで 薩摩がまさかの寝返り
同盟が成り立つや 一気に形勢は逆転

慶応四年 鳥羽伏見の戦いでの敗北を機に 
錦旗が討幕派に落ちると 末代将軍慶喜は身を案じ
城を抜け江戸へと逃げ帰る 
あれほど忠誠を誓った筈の将軍家の唐突な翻意 
会津は後ろ盾を失い 京を追われた
やがて謂れのない逆賊の汚名を着せられ 
倒幕の嵐の中へと呑み込まれていった

「勝てば官軍負ければ賊軍・・・」気がつけば朝敵
孝明天皇より授かったご宸翰も もはや過去の遺物
やがて戦の舞台は北へと移り 押し寄せる薩長連合
その猛威の前に退却を余儀なくされた

Tsurugacastle

奥州会津 そこは美しい山河に囲まれた四十二万石の
城下町 剣に生き 忠義を尊び 生真面目で情け深い
それが会津人の魂
その後戦況悪化に伴い士中二番隊 白虎隊が結成された
歳の頃は十八にも満たぬ紅顔無恥の少年たち
日新館の学び舎で鍛えた強靭な精神と身体
「ならぬものはならぬ」の尊い教え
よもや会津の豊かな自然が血で汚れることなど
誰一人として想像した者はいなかった

やがて西軍が白河の関を攻め落とし その後母成を攻略
会津への玄関口 日橋川に架かる十六橋を突破し
一気に城下へなだれ込む 強大な武力の前に
ことごとく退却 そして敗走 戦況は誰の目にも明らか
ほどなく白虎隊に下った出陣の命 廻し文のお触れ
やがて城下のあちらこちらで戦火が立ち上り
噴煙のさ中で見る悪夢 それはまるで地獄絵図

戸の口原で奮闘した白虎隊だったが 圧倒的な数の前に
あえなく後退 隊士たちは四方八方散りじりに
命からがら戦場から敗走 崖をよじ登り谷間を下り
洞穴を潜り抜け 疲れ果てた末に辿り着いた運命の地
そこは飯盛山に中腹にある松林 小高き丘より
隊士たちが見たものは 燃えさかる己の故郷 
そして火の海の先には 激しく燃える五層の天守閣
鶴ケ城の異名をとる美しき城も もはや落城寸前 
息を呑む悲惨な光景に「もはやこれまで」と誰もが
死を覚悟 「生き恥を晒すなら死を以って尊しと成す」
それこそが武士道 それこそが武士の本懐
かくして副隊長篠田儀三郎以下隊士十六名は
遅れをとるまいと次々切腹 全員が潔く自ら命を断った

僅か十代で国を想い 故郷を護り そして儚く散った
会津の空の下 その瞼には父母の姿を思い浮かべ
死んでいったに相違ない
悲運なことに この時隊士が見たものは 燃えさかる
城下の噴煙であって 事実城はまだ落ちてはいなかった

Byakkotai

時同じ頃 敗色濃厚となり 筆頭家老西郷頼母邸では
もうひとつの悲劇があった
妻千重子 子供 親類縁者二十一名の集団自決であった
うたかたの夢は潰え 敵に辱めを受ける前の
壮絶な最期であったとされる

「なよ竹の 風にまかする身ながらも
           たわまぬ節はありとこそ聞け」

その後も薩長の容赦ない攻撃の前に 会津藩はただただ
成すすべなくたじろぐばかり 頼みの援軍は来たらず
奥羽列藩同盟の血判などどこ吹く風 孤立無援の篭城戦
小田山に据えられた 南蛮渡来の大砲の集中砲火に
勝敗はあえなく決した 明治元年九月 会津は降伏した
それは白虎隊の悲劇の僅か十六日後のことであった

Byakko

あれから百数余年が経ち 
平穏な時世にあって 当時を偲ぶ名所を訪ね歩いた
四十九号国道 強清水より峠を深く分け入れば
そこは歴史を辿る旅路 そこで繰り広げられた時代絵巻
遠い昔の出来事が現世に甦る
旧街道に架かる滝澤峠を下れば 城下へ続く一本道
その出口にあるのは戊辰戦争時の本陣跡 
柱には今も生々しく残る刃の跡 その南側一帯こそ
白虎隊ゆかりの地 飯盛山 非業の死を遂げた場所には
終焉を印す墓標 眼下に広がる綺麗な街並み 
霞の彼方にうっすらと浮かぶ 鶴に例えし美しき城
白虎隊士も見たであろう丘の上より あの日の光景を
しかと見届け脳裏に刻み込む

そして高台の石畳には 肩を並べて佇む十九の墓石
彼らの早すぎる死を悼み 線香を手向ける人々が
今も後を絶たない 
そしてその外れの山林にひっそりと立つ 飯沼の墓
彼こそ全員が自刃した筈の白虎隊士の唯一の生き残り
まさに歴史の目撃者 そして生き証人 皮肉にも彼が
生き残ったために 壮絶な白虎隊の悲劇が
後世まで語り継がれることとなった

志半ばで戦火に倒れ散っていった 勇ましき会津人の魂
それを心の奥底で感じ 夕焼けに染まる天守閣を
しかとこの目に焼きつけ 会津を後にした

終戦から早幾歳月 こよなく会津を愛し美しき山河を守り
死んでいった多くの防人たちの魂の叫び 
今もこの胸に去来して止まず
その遺志を引き継ぎ 天下泰平の世を続けることこそ
我等が使命 そして彼らへの何よりの供養
今の会津があるのは 多くの犠牲があるおかげ
会津白虎の魂は 脈々と現世に受け継がれ息づいている

彼岸獅子が秋の訪れを告げる頃 決まって私は
今は亡き祖父母の郷里会津を訪ね 来し方行く末を案じ
いにしえの歴史を胸に刻み、思いを馳せるのである


「もののふの猛き心にくらぶれば 数にも入らぬ我が身ながらも」

 薙刀の名手で 若くして戦場に散った中野竹子の辞世の句である

Aizubyakko

2009年5月23日 (土)

「遠い日の記憶」

小学校の通学路にあった古ぼけた木造の駄菓子屋
決まり事のように店番をするのは割烹着姿のおばあちゃん
そこは子どもたちの溜まり場 いつも夕刻は自転車の列
小銭で一個から買える選り取り見取りのお菓子の山
そして籤で当たる多彩なおもちゃ そこは子どもの宝の在り処
そんな夢を育む場所で 僕には忘れようにも忘れられない過去があった

あれは小6の秋 いつものように学校帰り友達と駄菓子屋で待ち合わせ
おばあちゃんは いつも子どもたちの相手で忙しそう
それでいてどこか嬉しそう そんな日常の中で僕に魔の手が忍び寄る
その日どうしてもほしいカードを見かけた でもお金が足りなかった
僕はとっさに嘘をついてしまった 「この前の買い物の時お釣りが足りなかったよ」
そう言ってまんまと100円をせしめてしまった

家に帰って親の顔を見た途端 全身を襲う罪悪感そして虚脱感
僕はおばあちゃんを裏切った あんなに優しいおばあちゃんを

あの日から僕は後ろめたさから その駄菓子屋に行かなくなった 
帰り道もわざと遠回りして 次第に友達からも離れていった
その後 そのまま小学校を卒業し その店と反対方向の中学へ入った
だけど心の奥のどこかにそのことが引っ掛かっていた いつも・・・

高校入学後は 僕の心の傷も癒えて 部活に熱中する日々を過ごした
やがて東京の大学へ進学し親元を離れての生活 そしてそのまま東京に就職した
あの日の出来事は日常の忙しさの中で すっかり遠のいていた

仕事に就いてようやく お金を稼ぐことの大変さを身を持って知った
営業の帰りに信号で止まった車の中で ふと古びた駄菓子屋を見つけた
その時 遠くセピア色に色褪せた記憶が僕の脳裏に鮮やかに甦ってきた
「あのおばあちゃんはどうしているかな そうだあの日の過ちをお詫びにいこう」

正月久しぶりに実家に帰省した 
その折 十五年ぶりに立ち寄ったあの日の場所
しかしそこに駄菓子屋はもうなかった 
建物は既に取り壊され 空き地と化していた

近所の人に聞けば 駄菓子屋のおばあちゃんは今から十年前に亡くなり
元々ご主人とは戦争で死に別れ 身寄りがなく独りでお店を切り盛りしていたため
その店はその後町に引き取られ 今から五年前に取り壊されたという
知らなかった 何も知らずにいた そんな自分がやるせない

幼い日の記憶を手繰り寄せ あの日の出来事を追憶
空き地の前で呆然と立ち尽くし 涙がとめどなく溢れた 
遠い日の過ちを心から悔いた できることなら生きてるうちに一言謝りたかった

その空き地に分け入り おばあちゃんが立っていた場所を探し当て
折れた木の枝で穴を掘り あの日の100円をそこに埋め手を合わせた

「おばあちゃんご免なさい 随分遅くなったけどあの日のお金を返すよ」
「どうか安らかにお眠りください・・・」

ようやく今 十五年の時を経て 長年の胸の痞えがとれた
帰り道 涙が止まらなかった でも人として大切な何かを取り戻した気がした 

すると僕の心の中で おばあちゃんの笑顔が浮かんでは消えた・・・

 

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